ウィキメディア財団 年次計画/2022-2023/外部の傾向
昨2022年にウィキメディア財団が外部の傾向の一覧を共有したきっかけは、聴き取りツアーでマリアナ・イスカンダー統括業務執行役員の呼びかけた「優先順位とパズル」でした("Puzzles and Priorities" 戸惑いと優先するべきことがら)。財団はトレンド更新に着手し、当年は運動のより広い範囲に力を貸すよう呼びかけて、これらトピックに関する考えを共有しようとしています。さまざまな視点を備えると、私たちを取り巻く世界の現実をより明確に把握し、意思決定の際により多くの情報に基づくことができます。皆さんから以下の草案にフィードバックをお寄せください。
これを外に目を向ける機会ととらえます。ウィキメディア運動として常に問う必要があります。「世界は今、私たちに何を求めているか?」と。たとえ見解が異なっても、出発点として理解の共有に向かえるとも言えます。トレンド分析の要件として、視点は長期にすること、私たちにとって重要なことの追跡を続けること - これはその表現方法で意見が一致しなくても必要です。
そうは言いましたが、私たちが暮らす世界は複雑で急速な変化を続けています。上記は私たちの運動にとって最も差し迫った問題の一部に過ぎず、私たちが直面する脅威やチャンスをまとめた一覧ではありません。
検索とコンテンツ
2022年以降の状況の更新:ソーシャル・ネットワーキング・サービスが従来の検索エンジンを破り続けているものの、人工知能(AI)はさらに重大な破壊を迫るものです。
若い視聴者は特定のパーソナリティを追う体験からますますソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS=TikTokやInstagram)に引き寄せられ、従来の検索エンジンから遠ざかっています。SNS はユーザーをずっと維持しようと新しい検索機能をテストしています。従来の検索エンジンはさまざまな戦略を試用し競争力の維持とユーザーが検索の時に目指す目的地という地位を保とうとして – ウィキメディアのコンテンツは外部の検索結果リンク集が拾う検索エンジン最適化(SEO)順位を押し下げます。
生成的人工知能が急増して知識の創造と消費には役立つとしても、知識のエコシステムにおける私たちの役割には不確実性とリスクをもたらします。ChatGPTは史上、最も急速に成長した消費者向け Webアプリケーションになるまで、わずか2ヵ月しかかかりませんでした。従来の検索エンジンとブラウザ(Google、Bing、DuckDuckGo)はGPTその他の大規模言語モデル(LLM※)を活用してAIチャットボット支援検索の試験運用を始めており – そこではウィキペディアを一部流用してデータ・トレーニングの情報源や知識の蓄積源に使うものの、情報の帰属あるいは表示を常に正確に表すわけではありません。(※=large language models。)
これらの技術は新しい上に急速に進化し、使い方によってはウィキメディアの使命前進に役立つと想定されます – 一例として効率化はプロジェクト群のコンテンツ作成、編集合戦の仲裁および技術面の貢献のワークフローで進むであろうし、あるいは新しい方法を提供して読者がコンテンツを見つけやすく、アクセスしやすくなる可能性はあります。ただし生成的人工知能(生成的AI)のツールを私たちのプロジェクト群に統合するには障壁があり – 懸念の一例として、生成的AIの出力はどんな著作権状況か、維持費と運用コスト、バイアス(偏向)や不正確さなどです。
この技術には持続可能性について大きな課題もあります。検索の入り口としてバーチャルアシスタントを使うと、既存の課題である継承不全と仲介者の排除を悪化させ、私たちのプロジェクト群に投稿や寄付を寄せるはずの消費者をさらに遠ざける懸念があります。AI を利用したコンテンツ作成には(ウィキプロジェクトの内外を問わず)、私たちのプロジェクト群に対する危険性があり、信頼性が低くそして/あるいは有害なコンテンツで過負荷になり、使命とブランドに取り返しのつかないほどの損害を受ける可能性があります。2023年3月、このトピックに関心のある皆さんとのイベントを初めて開き、通常の「コミュニティとの対話」という機会にしていくか、 何が課題か、次のステップについて話し合いました。
偽情報
情報戦争の激化。政府や政治運動による政治的および地政学的な武器としての情報戦争はますます激化し、複雑さを深めさらに微妙になり、危険性も増しています(偽情報の流布は物理的な脅威や恐喝、逮捕などをますます伴いつつあります)。
自動作成コンテンツの拡張。人工知能システムは高品質のコンテンツ生成の能力を拡張させ、ほとんどの主要市場で社会の主流の座へと急速に展開しています。ウィキメディアがそれ自体の位置づけをどうするかによって、この分野の形成に役立つかもしれません。
暗号化した偽情報ならびに誤情報攻撃のベクトルが伸長。電子空間の個人情報ならびに情報戦争の恐れは、偽情報をさらに閉ざされた経路へと進出させ、暗号化によって監視と予測がますます難しくなって、偽情報は繁栄し二極化がさらに進みます。公開のプラットフォームとして、この有害な傾向(監視が可能か、管理や整備が実施され、公有で公開か)に対抗する私たちなら、機能的に問題に対処する形式と方法論を示すことができます。
ウィキメディアは目立つ標的になった。2022 年には偽情報の物語と目標特化型の攻撃も増加し、運動自体ばかりか個人のボランティアの皆さん、当財団の評判にますます深刻なリスクをもたらしました。
規制
ウィキメディアは組織としてさらに国際的になり、つまりより多くの国の法規が適用されるようになりました。私たちのプロジェクトと関係者を保護するには、ますます幅広い法律を世界中で遵守しなければなりません。対象はアメリカの法律のほか、ヨーロッパ連合のデジタル・サービス法など広範な法律、さらにケースバイケースでは、世界の複数の地域における他の国の名誉毀損や個人情報保護の主張など法律が含まれます。私たちは政府の有害な行為と法廷で闘う準備を整え、さらに成長を続けながら、多くの国で有害な法律に反対すると公言していかなければなりません。
ホスティングのプロバイダーに求められることは、これまで以上に多くなります。政府は政治的圧力を強め、オンライン上で認識される危害や偏見に対処できる緊急対応キットを整えるよう求めてきます。一方で今年2023年、影響力のあるインターネット法「通信品位法230条」(CDA 230)に対して異議を唱える訴訟2件がアメリカの米国最高裁判所で審理され、ウィキペディアほかのプラットフォームが依存する確立された中間保護を潜在的に混乱させます。他方、有害なコンテンツのホスティングに対する罰則が強化され、一例としてイギリスのオンライン安全法案(Online Safety Bill)など、場合によって刑事罰に処されます。
議員はウィキペディアのことなど念頭にありません。法律家はウィキメディアを営利目的のプラットフォームと混同し続けてきました。ボランティア主導のウィキメディアのコンテンツ管理モデルを理解している政策立案者はほとんどいません。政府と政策の影響力者を教育して、ウィキメディアの形式 -- そして法律がそれをどのように保護し支援するべきか伝える必要があります。
営利目的の技術プラットフォームとの関係は重要であり複雑です。双方が互いを必要としています。しかしウィキメディアの形式やプロジェクト、関係者を有害な規制から守るには、立法者や政策に影響を及ぼす有力者に、大規模な営利目的のプラットフォームとウィキメディアの相違点を具体的に教育を受けてもらう必要があります。議員や政策に影響力のある人々が理解できるように、ボランティア主導のモデルの機能のあり方、私たちの運動が社会に占める積極的な役割に投資する必要があります。