Wikimedia Blog/Posts/2018年ウィキメディアン年間賞受賞者 Farhad Fatkullin さん 成功の軌跡と将来像を語る

2018年ウィキメディアン年間賞受賞者 Farhad Fatkullin さん 成功の軌跡と将来像を語る

1年前のウィキマニア (en) 期間中、Farhad Fatkullinさんは在宅で講演の同時通訳ボランティアとして時間を寄付していました。ウィキマニアとは毎年恒例のカンファレンスでウィキペディアとウィキメディアのプロジェクト群、それらに貢献するボランティアを讃える機会です。

閉会式で登壇したウィキペディア創設者のジミー・ウェールズは恒例のウィキメディアン年間賞として、それぞれの功績により、ウィキメディアに参加する私たち共通のVision/ja将来像Mission/ja使命を体現する利用者の表彰を始めようとしていました。誰でも自由に人類の知識の総体を共有できる世界を想像してみてください。

ウェールズがしゃべる言葉を同時通訳していきます。するとウェールズがFarhad Fatkullinの名前を読み上げました。

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Fatkullinさんはロシアにある80の自治領のひとつタタールスタンカザン在住で既婚、子供は2人です。この19年間、フリーの会議通訳として主にロシア語・英語を担当しており、加えてタタール語を含む4カ国語を使用します。

ウィキメディアのプロジェクト群では昨年ウェールズが形容したように複数言語を結ぶ「橋」の役割を担っています。通常、グローバルなメッセージに焦点を当て英語からロシア語へ翻訳しており、ロシア連邦内のウィキメディアコミュニティの少数言語話者が理解できるようにしています。

「たまたまマルチリンガルだったのと、自分と未来の世代が住む世界にも多言語話者、多様な文化の理解者になってほしいと願っています」と取材に答えています。「単一言語とか2か国語の視点で眺める世界観は退屈です。毎日の食事と安全が確保できたら、人は生活の質を求めるもの—つまり多様性を作り出したり経験したりすることに目が行くのです。私たちの世界を彩り豊かにしようとする人たちのお役に立てれば嬉しいです。」

さらにこうも言いました。

我ながらよく世界の言語や文化に関心があったものだと思います……〈知識の総体〉には必ずや人類のすべての言語とそれに伴う文化の知が含まれるはずだと心底、思っているのです。残念ながら、私たちの時代は少数言語の絶滅が相次ぎ文化の多様性が損なわれようとしています。もしこのような知識の豊かな蓄積が現在や未来の世代にとって有意義になるよう図らず、消滅に眼をつぶるなら、マクドナルドなどファストフード料理のチェーン店からしか食事場所を選べないのと変わりありません。

タタール語版ウィキペディアの存在を知った2008年当時、テネシー州議会でアメリカ連邦政府の奨学金を受ける研修生ではあったものの、本格的に百科事典編集を始めるのは2012年以降でした。

そのころタタール語系小学校に入学した娘さんの影響があり、自分が使える言語の中ではタタール語版ウィキペディアの規模が最小であったことから、その編集は「自分のエネルギーを注ぐのに最適のアプリケーション」だったといいます。またタタール語を操るには練習と勉強が欠かせず、その目的に合う「ジム」にもなりました。

Fatkullinさんはロシアのウィキメディアコミュニティでもたちまち注目され常連になりました。世界で最も広い国土には多くの自治領があり、第1公用語のロシア語に加えて民族語を公用語に承認する傾向が広がる中、タタールスタン共和国でタタール語が公用語になります。ロシア国内には実に30言語のウィキペディアコミュニティがあり、また横断的なウィキメディア民族語コミュニティは「少数言語と絶滅が心配される言語に固有のウィキメディアプロジェクトを作るよう働きかけ支援する」という趣旨で活動しています。その両方でFarkullinさんの翻訳活動に関心が寄せられることになります。

このような活動に基づき、2018年のウィキメディアン年間賞が送られました。受賞から1年間を経て「思いがけない方向に人生が変わった」と自ら語りますが、実はストレスを感じる時期もあったそうです。

受賞直後、いきなりロシアのウィキメディアのコミュニティ群で有名人にされたわけで、その立場から、地元および中央政府の高官と面会できることになりました。一例としてFarkullinさんはタタールスタン共和国の副知事との面談を取り付け、その後、政府の公式ウェブサイトをライセンスする許可が降りて常設のウィキメディア作業グループ設置に至ります。

教育の機会普及を熱心に支援するFarkullinさんは、前タタールスタン共和国大統領とユネスコ文化間対話特別大使とも面談しました。これらの人々を介してセレトウィキ学校プロジェクト設立の応援を受けることに結びつき、タタール語話者の生徒学生にウィキメディアの研修を行なっています。最終的には多くの政治家を経てロシア連邦政府の副大統領に「ウィキ知識特区」構想の提案が実現しました。この構想はデジタル情報社会を作る活動に老若男女の誰でも参加できるよう、生涯学習を普及させて地域経済の活性化を図るというものです。

今後の抱負について、教育関連の分野に重点を置きたいそうです。「どの計画も時間と努力なしには進まないのですが」と言い、「それだけやり甲斐があるのです。タタールスタンの政府も企画とロシア国内外への呼びかけに関心を寄せており、きちんとしたロードマップを作ったり企画を提示したりする努力はするべきだと確信しています。」

2019年のウィキマニアは8月14日–18日にストックホルムで開かれ、その閉会式では受賞者が登壇します。Fatkullinさんがウェールズとともに、2019年度の年間賞受賞者にバトンタッチする姿をご覧に入れます。

コミュニケーションズ部門

上席編集主任 エド・イアハート

ウィキメディア財団
この投稿は2018年8月14日付ウィキメディア財団の公式サイトへの掲載が初出で、そちらからCC BY-SA 3.0を継承しています。