ユニバーサル行動規範/2020年第1回聞き取り調査/日本語版

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ユニバーサル行動規範

コミュニティの概要

開設日:2001年5月11日。19年前[1] 活動中の編集者数、管理者数ほか[1]

  • 管理者:37人
  • 活動中の利用者:1万5,024人 (登録者数:162万9,728人)

記事、プロジェクトのサイズ(バイト数)[1]

  • 記事:120万4,352
  • 深さ[2]: 83

編集者から意見を集める場所として想定したウィキペディアの井戸端は、編集歴が短い利用者が意見表明に参加する場とは捉えられてないこと。ウィキペディア日本語版の井戸端の経緯を読み、ウィキメールを介した非公開の意見表明を選ぶ利用者もあった。

ウィキペディアの井戸端で公にコメントする利用者は主に男性で、編集の経験は長い傾向にある。また初学者の#相談窓口(後述)がないことから、調査対象として初学者の抽出が難しい。あるいは衝突の現状や当事者を把握する裁定委員会があれば、いじめや嫌がらせの当事者の話を聞く機会が増える可能性はある。

日本語コミュニティは利用者グループとして登録を検討しながら、2012年以降は停滞している。そのため日本語コミュニティの実情が財団に伝わりにくい。反対にコミュニティの視点に立つと、財団の意見募集の告知文が英語だけで、リンク先の議論の解説、さらに関連ページも多言語化が遅れており、肯定できない[lower-alpha 1]

  • だれが嫌がらせ行為の被害者か。人権(信教ほか)に関わる特性が利用者の問題行動の根底にある場合の対応。望ましい行動を推奨し、編集を差し戻しても堂々巡りに終わる。UCoCは嫌がらせ行為の被害者に注目するが、被害者として扱いを求める事例は発生しないか。
  • 井戸端をよく読む利用者は負の経験をしのぎ活動を続ける「生存者」という指摘があった。

コミュニティの採用する行動の方針の概要

ウィキペディア日本語版が定める、利用者の行動に関する方針とガイドラインは3分類される。すなわち2群の方針は「行動規範」に相当する「利用者の行動のルール」14項目(wikidata)と、「ウィキペディアでの合意形成」8項目(wikidata)である。また「利用者の行動についてのガイドライン」10項目(wikidata)が推奨されている。

聞き取り調査

どのようにしてコミュニティに連絡したか?

  • ウィキペディア(以下、jawpと表記):井戸端でご意見募集[3]
  • コモンズ:井戸端でお知らせ、メタ・ウィキメディアのページへ案内[4](ウィキペディア井戸端への案内補完)
  • ウィキソース:井戸端でお知らせ、メタ・ウィキメディアのページへ案内[5](ウィキペディア井戸端への案内補完)
  • ウィキデータ:井戸端利用者にウィキメールで呼びかけ
  • ソーシャルネットワークサービス(SNS):Twitter ハッシュタグ、Facebook非公開グループで告知
  • Facebook メッセンジャー:個人的な知人に呼びかけ

回答率

  • jawp:井戸端7名/NA
  • プロジェクトページ単位でウィキメールで連絡、2/5
  • コモンズ:1/NA
  • ウィキソース:1/NA
  • ウィキデータ:0/1
  • メタ・ウィキメディア:2/NA
  • SNS:0/NA
  • Facebook メッセンジャー:1/12
(凡例:回答件数/依頼件数、NAは不特定多数を示す)

より広い範囲から聞き取る工夫。呼びかけを行った場所のタイプ・方法—

  • jawp:各コメント投稿者の入力をまとめ、確認を依頼。募集期日の告知[6]とコメント内容の確認作業。日本語が非母語の利用者をメタウィキメディアのページへ案内(英文)。ご意見募集の終了と謝意の表明[7]
  • コモンズ:井戸端に非公開の回答受付と募集期日[8]を告知、募集終了後の謝意を表明し次の段階を案内。ウィキメールで利用者に回答を依頼。
  • ウィキソース:井戸端に募集終了の謝意表明と次の段階の案内[9]
  • ウィキデータ:{{Wikimail}}通知
  • メタ・ウィキメディア:募集終了の謝意と次の段階の案内[10]
  • SNS:特になし
  • Facebook メッセンジャー:2度目の呼びかけ、期日付き

提携団体/その他のグループ

  • ウィキペディア(以下、jawpと表記):井戸端でご意見募集[11]
  • コモンズ:井戸端でお知らせ、メタ・ウィキメディアのページへ案内[12](ウィキペディア井戸端への案内補完)
  • ウィキソース:井戸端でお知らせ、メタ・ウィキメディアのページへ案内[13](ウィキペディア井戸端への案内補完)
  • ウィキデータ:井戸端利用者にウィキメールで呼びかけ
  • ソーシャルネットワークサービス(SNS):Twitter ハッシュタグ、Facebook非公開グループで告知
  • Facebook メッセンジャー:個人的な知人に呼びかけ

コミュニティのフィードバック

回答の概要 — テーマ順

  • コミュニティにおけるユニバーサルな行動規範(以下UCoC)の必要性:
jawpコミュニティはすでにある程度は満足できる行動規範のセットを保持しており、UCoCのアイデアは他の言語コミュニティに役立つと考えられる。
  • 普遍性:
適用がユニバーサルなのだから、ルールの数・定義を最小限に抑えるべき。プロジェクトがどれほど多様になったかを考えると、あまり詳しく説明しないのが賢明。そうしないと、ローカルのプロジェクトで地域化するのが難しくなる。
  • 文化的背景:
英語母語の文化圏以外で誤解されるような方針を、UCoCに含めることは避けるべき。あるいは日本文化で特定のルールを設けていないのに、UCoCが採用したルールを日本文化に持ち込むと混乱する。

少数意見 — 関連性があり指摘が少ない

  • 法務的サポート:
非常に長期間にわたる破壊行為の対応策として、法的措置という選択肢に期待する。日本の司法制度では現状、ウィキメディアの日本語コミュニティは破壊者を相手に損害賠償請求を行う存在として認知されない。もしUCoCの実施により、ウィキメディア財団(以下WMFと表記)が日本語コミュニティまたは管理者を法務でサポートできないか。
  • 元犯罪者の個人情報秘匿:
jawpコミュニティには、国内の特定の最高裁判例に依拠し、元犯罪者の個人情報を秘匿する方針がある。UCoC導入を機にローカルで議論できないか。
  • 著作権違反:
UCoCでは確実に著作権違反に対してルールを作り、他言語版への翻訳を介して著作権違反が波及するのを防いでほしい。過去版から他言語に翻訳された後、日本語版で著作権違反が検出されたら、他言語版に申し送りするべき。
  • 問題-a)だれがフォローアップするのか?
  • 問題-b)翻訳元(ソース言語)で削除された当該箇所の通知を翻訳先のページに送る手順は、技術で支援できないか?
 
Community feedback
  • ジェンダーの公平性:
UCoCで言及するべき。ただし文化的背景を尊重し、対処する必要がある。たとえば「処女作/処女航海」という表現は多くの文化が取り入れてはいるが、ジェンダー意識の高い利用者から「処女」や「乙女」などの用語に不快感や不適正さが示され、性差別的な観点で使用される傾向の指摘がある。
  • 財団職員や理事の行動規範:
既存の行動のルールに、ウィキメディア財団の職員ならびに理事会を対象にしたものはあるのか。
  • ウィキメディア財団職員ならびに理事が守るべきルール集は財団のページに「Code of conduct policy」[14](英語)が掲出され、ボランティア参加者にも参照を呼びかけている(初版2007年[15])。

肯定的なフィードバック

利用者の行動のルールを整備できないままの言語コミュニティは50%に上ると示され、嫌がらせ行為の管理に苦労しているなら恩恵を受ける可能性はある。案件に対応する戦略は、すべての言語コミュニティで共有できる。

コミュニティが懸念すること

  • jawpではUCoCが導入され、既存の方針やガイドラインとの不一致を調査したり、「修正」するなどの見直し作業を警戒されている。細目を決めないUCoCにすることが推奨される。
  • 井戸端の参加者はUCoCにあがりそうな項目が、jawpに不足しているとは感じておられない。ローカルのルールがユニバーサルな標準の影響を受ける必要に否定的。

興味深い記事

1.) 記事の削除依頼(AfD)で削除された人物伝から、別の新規ページの準備が始まった事例。投票期間中に立項者の利用者ページにコメントがあり、人物伝は削除されても、削除の討議中に基礎資料の存在が明らかになったため、新規に別項目を準備する旨が述べてある。主題を特定の人物から拡大すると、町の歴史を照らす記事が立項できるという。

ただし、2つの面で不幸な事例であった。立項者はAfDページで質問を重ねたため、目的外の発言と判断された。ところが、その記事が初めての編集活動であり(編集回数50回未満)、コミュニティのルールを習得していないため質問を重ねるが、その点はコミュニティには斟酌(しんしゃく)されても、具体的な指示はリンクのない略語が頻出した(POVなど)。慣習上、略語は便利ではあってもこの事例では立項者を慌てさせ、さらに多くの質問をAfDに書き込み、議論が長引いたとして投票者をイライラさせた。

戦間期の特定の地方都市の隆盛という、新しい記事の立項が待たれる。震災と景気低迷で大きく変貌した地域の、知識と歴史の継承として興味深い。

コミュニティに学んだこと。

ウィキペディア日本語版(以下jawp)では、15年以上を費やして[16]行動の方針とガイドラインを整備されてきた。ただし、作成過程よりも後にウィキペディアに参加した利用者にとって、かなりの数の「破ってはならないルール(方針)」と「守るべきルール(ガイドライン)」がある状態で、さらに不文律があるとされ、それらすべての順守は支援なしには非常に難しい。

それらを連携して判断する煩雑さ、経験則と事例で適応にブレがある点は、ウィキメディアへの参加時期の新旧を問わず利用者の脱退を招いたり、あるいは新規参入の壁になっている感触はあるものの、数値化が難しく把握できなかった。ウィキメディア全般まで対象を広げるユニバーサル行動規範(以下UCoC)に必要な視点を提供された。

2.) 元受刑者の個人情報保護:日本の最高裁判所判例には刑の確定した犯罪者の子尋常保護を支持しており、日本語版ウィキペディアはこれを採用し、そのような記述は削除の対象。ところが日本語以外のウィキペディアに載った漫画の記事では、作家の発想源やきっかけが実際の犯罪事件であった場合に、編集者は犯罪の詳細を加筆し、またその漫画が日本人の漫画家の作品であった場合、英語版ウィキペディアの編集者が言語間リンクされたトークページに現れる。信頼できる情報源がないかどうか相談する議論を提示しても、生産的な答えは得られない。

データ:聞き取り調査の概要

オンウィキ オフウィキ 個別
ウィキ空間 回答者 プラットフォーム名 回答者 手段(ウィキメール・電話・

チャット・面談)

回答者:依頼件数
ウィキペディア日本語版

井戸端

7 GLAMエディタソン 0 ウィキメール 3:7
メタの聞き取り調査ページ 2 Twitter ハッシュタグ#jawp:

Retweet 2、Likes 3

NA Facebook メッセンジャー 1:12
2020年 Art+Feminism[17]、2019年 WikiGapプロジェクト 0 Facebook 非公開グループ    NA 利用者がウィキメールを選択 2:NA
小計 9 小計 0 小計 6
合計 15

終わりに代えて

ウィキメディア運動の戦略方向性[18]、2030年に向けた戦略の勧告はどの程度、周知されているのか調査の前提として反省点である。他言語版の聞き取りでは国別協会もしくは利用者グループを介して周知と回答の回収がされた点は、日本語話者コミュニティでは手当できなかった[lower-alpha 2]

文化の多様性に対して
UCoCがローカルの運用する方針とガイドラインに、影響を与えないかどうか。日本語話者のウィキペディア以外のコミュニティを含め、新興の言語コミュニティが採用する行動のルールに、果たしてjawpのそれらが利になるかどうか意見が分かれる。ごく基本の項目のみUCoCにまとめるなら、汎用性はあるかもしれない。

利用者向けルールの習得は大きな課題である。行動のルールとしてすべて把握することは理想であるものの、編集初学者にその習得を促し、疑問点をじっくり解決するシステムや、初学者に特化した#相談窓口がない点は調査対象の他言語版のいくつかと共通する。

善意の助言と嫌がらせ・いじめ
編集初学者を含む少数派は、善意の助言を受けた場合であってもその根拠となる方針やガイドラン、不文律を理解できず、批難されたと感じることがある。あるいは方針違反を指摘されガイドライン順守を促されても、何をどう質問して良いかわからず、ヘルプページ井戸端に助言を求めるに至らない場合がある。過剰反応により、故意ではないながら3リバートルールを破るに至ることもある。または説明を受けても、十分に理解できないうちに「記事削除候補」の投票が終わり、モヤモヤが残ってしまう[lower-alpha 3]
日本語話者のコミュニティとして、ウィキペディアを含め管理者や有志は管理作業で手一杯である。参加者総数の少ないウィキはさらに、あらためて行動ルールを設定するのは困難なものの、これまでは利用者の総数が相対的に少ないことが幸いし、大きな問題は発生しないまま進んできた。ただし、中立性の問題がコミュニティを悩ませる事例はあり、コミュニティは手をこまねいている。問題行動を重ねる利用者に被害者意識がある場合、信教の自由を含む人権に基づく嫌がらせ事案として、ウィキメディア財団に嘆願される可能性、その論拠にUCoCが当てられはしないかと危惧される。

当初の否定的な反応では、提言のページが理屈一辺倒で説得性に欠けると指摘された。ある参加者から読める資料には議論の焦点が全くないと発言した。それは日本語コミュニティがウィキメディア財団(以下、財団)のコメント依頼あるいは議論に対して抱える全般的な不満の反映かもしれない。財団は日本語コミュニティを協議に参加させるよう、もっと有効な関与をする必要がある。これは今回のように、財団がローカルの言語でコミュニティに語りかける試みをした時に実現するはず。

その他の課題

コミュニティから指摘があり、方針やガイドラインをめぐってプロジェクト群や他言語版で行われた議論を抽出するツールがもっと必要とのこと。方針やガイドラインに関する議論を相互参照するには時間がかかるから、技術的な支援がもっと必要。「行動規範に関するページはメディアウィキでもメタでもほんの少ししか翻訳されていない。ボランティアのアカウントでいくつかを翻訳中。」

脚注

  1. Cite error: Invalid <ref> tag; no text was provided for refs named non_en
  2. メタ・ウィキメディアの聞き取り調査ページは、ご意見募集期日からの1カ月間に120-141ページビュー[19]であった。
  3. Cite error: Invalid <ref> tag; no text was provided for refs named novice

参考資料

  1. a b c データは「Wikipediaの一覧」による
  2. 深さ
  3. ウィキペディア日本語版の[1]でユニバーサルな行動規範についてご意見募集。
  4. コモンズは井戸端でご意見募集を告知、メタ・ウィキメディアのページへ誘導。
  5. ウィキソースは井戸端でご意見募集を告知、メタ・ウィキメディアのページへ誘導。
  6. ウィキペディア日本語版の井戸端で募集期日の告知
  7. ウィキペディア日本語版の井戸端で募集終了と謝意を表明、次の段階をお知らせ
  8. コモンズの井戸端で追加の告知と募集終了の謝意、次の段階の案内を掲示。
  9. ウィキソースの井戸端で募集終了の謝意表明と次の段階の案内を掲出。
  10. メタ・ウィキメディアの聞き取り調査ページに募集終了の謝意と次の段階の案内を掲出。
  11. ウィキペディア日本語版の[2]でユニバーサルな行動規範についてご意見募集。
  12. コモンズは井戸端でご意見募集を告知、メタ・ウィキメディアのページへ誘導。
  13. ウィキソースは井戸端でご意見募集を告知、メタ・ウィキメディアのページへ誘導。
  14. ウィキメディア財団職員ならびに理事が守るべきルール集は財団のページ foundation.wikimedia.org にあり、「Code of conduct policy(英語)という。ボランティア参加者にも参照を呼びかけている。
  15. 財団のページ「Code of conduct policy」初版との差分。初版以降の変更点は、ページ名の大文字遣いを修正、カテゴリとテンプレートを付与した。
  16. ウィキペディア日本語版の方針とガイドライン(初版)は2003年2月2日 06:24 (UTC) 付。
  17. 助成事業のため、財団の要請を受け、新型コロナウイルス感染対策で開催を中止。
  18. 運動戦略の方向性は2017年より討議されてきた。
  19. ページビューは2020-04-28 - 2020-05-28の期間、総計144回から担当者の作業回数分およそ20回を引くと[https://pageviews.toolforge.org/?project=meta.wikimedia.org&platform=all-access&agent=user&redirects=0&range=latest-30&pages=Universal_Code_of_Conduct/Discussions/Japanese_community 2020-04-28 - 2020-05-28 · 141のページビュー (5/日)、中央値: 2、一日平均: 5]。データは外部サイト pageviews.toolforge.org による。